「純情エレジー」豊島ミホが書く、七つの愛しく儚い純情物語
官能小説として紹介されており、実際読んでみたら性にまつわる内容がありますが、細かな表現はそれほどないため、私はすらすら読むことができました。
ネタバレも含む紹介ですので、内容をまだ知りたくない方は御遠慮ください。
「純情エレジー」はこのように七つのお話からなっています。
目次
- 十七歳スイッチ
- あなたを沈める海
- 指で習う
- 春と光と君に届く
- スイカの秘密を知ってるメロン
- 避行
- 結晶
十七歳スイッチ
女性経験のない十七歳の男子高校生と、同じクラスでありながら、120円のコーラ缶をおごってもらえば身体を許してしまうという噂のある女子高生のお話。
お互いの全く違う考え方のまま進んでいく二人の関係が面白いです。
あなたを沈める海
小説家として上京し、一年に一回、二泊三日で帰省する男性と、高校生の時に付き合ってはいないものの身体の関係を持っており、現在は同じ地元で親の仕事を手伝う女性。
その女性目線でのお話です。
男性の帰省に合わせて、女性はかならず迎えにいき三日間の二人は濃い時間を過ごします。
一年に一回しか出会えない二人、自分たちの気持ちは果たして恋なのか。二人の機微な心理に注目です。
指で習う
京都の呉服屋の息子でありお金持ちな男性と、東京をまたいで大阪の大学に通った女性の話。
二人は同じ大学で出会い、深い関係となりますが、男性が別の女性と結婚することとなり二人は会わなくなってしまいます。
女性は地元で書道教室を開き、そこで出会う生徒との影に大学で出会った彼を思い出し重ねてしまいます。
あれほど愛していた男性をどうしても無意識に思い出してしまい、複雑な気持ちになるところがとても共感できます。
春と光と君に届く
「他人に期待せず生きる」という教えで生きてきた28歳のゴミ収集員の夫と、叔母の紹介で見合いという形で結婚した19歳の妻とのお話。
19歳の妻は昔から人の言うことを何でも受け入れてしまうという性格であり、それを心配した叔母が信頼できる現在の夫に紹介したのでした。
夫は昔の教えから、妻に愛情表現などをしていませんでした。
ある日、交通事故によって夫は意識はある状態ですが身体は全く動かなくなってしまいます。
病院に寝たっきりの夫に毎日寄り添い聞こえているか分からないのに声をかける妻、なんとしてでも声を発そうとするが、それができない夫。
そのとき愛情表現を今までしてこなかったことを激しく後悔します。
夫婦の心情から、今を大事に生きることを伝えてくれるお話です。
スイカの秘密を知ってるメロン
田舎の近所で知り合った結婚している男性と、結婚する前から関係があった3歳下の女性のお話。
結婚後も二人は時々会い、逢瀬を重ねます。
このお話は、必ずしも好きな人と結婚するわけではないということを強く伝えてくれます。
そんな難しい世の中であることを信じたくないけれども存在するんだろうな、という気持ちになります。
タイトルの意味にも注目です。
避行
このお話は二話の「あなたを沈める海」の男性目線です。
この男性実は上京した場所に彼女がいました。そんな中一年に一回の再会を繰り返してきた二人。
男性側も地元の女性の対して想う気持ちがありましたが、お互いに踏み出せない関係のため、そこから進展がなくまたお別れをしてしまいます。
自分の気持ちに気づくこと、それを正直に伝えることの難しさが細かく表現されているお話です。
結晶
モデルをやっている男性と、大学生の女性のお話。
二人は田舎の中学の同級生でお互い強い印象はありませんでしたが、東京にて再会することによって関係を深めていきます。
お互い両思いでしたが、男性の仕事が上手くいかなくなり、タイミングを決め二人で帰省することにします。
帰省してお互いの実家に帰った二人はそこから気持ちの切り替えがあり、それ以来会うことはなくなりました。
このお話を読むと、お互いを想う気持ちだけでは、環境によっては関係を維持できない場合もあるということを強く感じました。
おわりに
浮気や不倫のカテゴリーではありますが、人間関係はドロドロしすぎていないため官能小説と言われている中では、かなり読みやすいです。
どれも現実に起こりうる可能性が高いお話であるため、スッと共感できるポイントがたくさんありました。
すごく簡単にまとめてましたが、他の登場人物や細かな心情、背景がとても深いのでぜひご覧になってください!
ここまでお読みいただきありがとうございました!
「シンメトリー」
この話はある男の目線で物語が進む。この男は、駅員として勤務しており、定期をなくしたことがきっかけで日頃挨拶をするようになった女子高生を恋目線ではなく、見守ってあげたい気持ちで改札を通る後ろ姿を見ていた。しかしある日、彼女が乗っていた電車に車が衝突し、目の前で横転しそうな電車に気絶して乗っていた彼女を助けようとするが、間に合わず彼女自身と彼女の手を握っていた自分の右手は電車の下敷きになってしまう。これを機に男は駅員を辞めた。
この事故で亡くなったのは100人を超えるものにも関わらず、被告人の男はわずか5年の懲役。そして憎らしかったこの男を、元駅員の男は殺すことを実現させる。ナイフで刺し殺し、線路に縦に置くことで体に真っ二つにした。
この後姫川による捜査で元駅員の男は逮捕されるが、題名にもあるシンメトリーという言葉。線路を軸に左右対称に置くこと、当時電車に衝突した時と同じ現場を選んでいることが被告人に対し異様な執着心があることを示している。
【私見】
この元駅員、人殺しをしているのに、不思議と悪人として見れない。いつも見守っていた女子高生のことを考えると妙に動機に納得が言ってしまう部分がある。それが誉田哲也さんの書く本の良さであると改めて感じた。
「アンダーカヴァー」誉田哲也
誉田哲也さんが書いた短小説「インデックス」の1つ目の話。(姫川玲子シリーズ)
卸問屋の社長が、血縁関係にある3人で構成された詐欺グループである商社に騙され、自殺に追い込まれてしまう話。
名門大学を卒業し、大手商社に務めていた主犯格の男がなぜ詐欺などをしているのか疑問に思う主人公。取り調べで主犯格の男は、「人生はゲームだ。上手く行こうがいかまいが人はいずれ死にゲームオーバーとなる。子供がやるテレビゲームと同じ原理だ。自殺した社長は金という負債に負けて自らゲームオーバーになっただけだ。」と持論を用いる。
これに対し主人公は、「個人の価値観はそれぞれだけど社会的にはルールというものが存在する。魚が水から上がっては生きられないように、人間という生き物は社会の中でしか生きられない。ブランド品など、下手な片意地を張らない方が何倍も楽に、自由に生きられる。」と言った。
<私見>
この最後の取調べのシーンが印象的だった。主人公が犯人に対し、「あなたも早くこっち側にいらっしゃい。」などと犯人の考えを完全に否定するのではなくこちら側に引き込もうとしているところだ。その後犯人は無言となってるため、主人公の考え、その伝え方は警察としてではなく、人の心理に入り込むような力があり、頑なに変化しない犯人をも揺らがせることが人として大事な能力だなと感じた。